幸福経営
上達功
株式会社丸上 代表取締役社長 上達功 https://marujo.jp/

Profile

早稲田大学教育学部を卒業したのち、日本IBM入社。そこで丸上の一人娘の家内と出会い、2002年に結婚。2005年より丸上に入社。
経済産業省和装振興協議会商慣行分科会委員、きものサミット商慣行分科会パネリスト、東京織物卸商業組合副理事長、和装部会長。全日本きもの振興会理事。

現在の仕事についた経緯

まさか自分が着物屋になるなんて、想像もしていませんでした。学生時代はアメフトに打ち込み、卒業後はIBMに入社。合理性とデータを武器にシステム営業として働いていました。
そんな僕に家業という選択肢が生まれたのは、呉服問屋の一人娘である妻と結婚してからです。迷い続けた末、初めて社屋を訪れ、着物の美しさと職人技に触れたとき、自分が日本文化に無関心だったことを恥ずかしく思いました。
そして、和装業界がマーケティングやIT活用に大きな可能性を残していると気づいたとき、自分の力が活かせるのではないかと入社を決めました。

仕事へのこだわり

仕事において最も大切なのは、「お客様の役に立つこと」です。これはどんな業種でも変わらない普遍的な原則だと僕は思っています。和装業界には長い歴史がありますが、その分「昔ながらのやり方」に固執する空気も根強く、変化や挑戦に対して慎重な側面があります。
ですが、時代が変われば、顧客が求める価値も変わります。そこにきちんと向き合い、「本当に求められているものは何か?」「そのために最適な手段は何か?」を常に問い続け、柔軟に進化していく姿勢こそが、これからの業界に必要だと考えています。

着物は、決して安価でも便利でもありません。でも、だからこそ得られる体験があります。人生の節目を彩る晴れ着として、心を引き締める大切な時間に寄り添う衣装として、あるいは、非日常を味わい、文化的な価値に触れ、自分を少しだけ特別に見せてくれる存在として…。着物は単なる衣服ではなく、人の心を動かす「文化」であり、感性に訴えかける「美」の表現だと思っています。

この素晴らしい着物文化を次世代に繋いでいくために、僕たちは単なる「問屋」ではなく、「文化と市場をつなぐ役割」を果たす存在でありたいと考えています。作り手の想いや技術を正しく届け、エンドユーザーの多様なニーズに応えられるよう、多種多様な商品を的確に流通させる商社機能を高めてきました。

さらに、マーケティング戦略の策定やDXの推進、小売店様への社員教育にも力を注ぎ、従来の業界にはなかった新しい価値を創造しています。例えば、着物の魅力をデジタルでどう伝えるか、どのように若い世代や海外に発信していくかといった取り組みは、和装業界にとって未開拓の分野でもあります。だからこそ、そこに挑戦する意義があるのです。

僕の仕事へのこだわりは、「伝統を守るために、変えるべきことを恐れない」ことです。そして、「誰よりもお客様の立場で考え抜く」ことです。これからもその姿勢を貫きながら、着物という文化資産を未来へと届けていきたいと思っています。

若者へのメッセージ

今の若い方は、中学生の頃からスマホを使いこなすデジタルネイティブ世代で、情報を集め、答えを見つけ出す力にとても長けているように見えます。でも、自分の人生の答えは、いくらWebを検索しても出てきません。
僕自身、学生時代から社会人になるまでは、効率や正解らしきものを選ぶことが多く、あまり自分の人生について深く考えることはありませんでした。しかし、転職のタイミングで初めて本気で「自分は何がしたいのか」と向き合うことになり、たくさんの本を読み、いろいろな人の話を聞く中で、少しずつ本当の自分の考えが見えてきました。
人は経験を重ねながら、自分の得意なこと、好きなことに気づき、それに情熱を注ぐことで前に進めるのだと思います。そしてその経験は、本物に触れることで深まります。ぜひ、自分の足で現場に行き、リアルな世界に触れてください。そこにしか得られない気づきがあります。