リーダーインタビュー
竹島雄平
Artcol株式会社 代表取締役 竹島雄平 https://www.artscol.info/

Profile

ADHD(注意欠陥・多動性障害)当事者としての自身の経験を原動力に、神経多様性を持つ人々が直面する困難の解決を目指す起業家。
幼少期から多動性と旺盛な好奇心、そして集中力の持続困難といった特性を抱え、小・中・高校時代は、人との会話を活発にする反面、集中力が持続しないネガティブな部分で苦しんだ。大学卒業後もその困難は続き、最初の1年間で2社を退職するという経験を持つ。まさに発達障害の「凹の部分で苦しんだ経験」が、後の起業家精神の礎となる。
これらの自身の経験をバネに、「圧倒的に得意な凸の部分」を活かして新しい価値を提供すべくArtcol株式会社を設立。AI技術を駆使し、特に自閉スペクトラム症(ASD)のある個人を対象とした支援ツール「Adam ASD Assistant」を開発・提供している。このツールは既に数多くのユーザーに利用されており、当事者目線での支援の必要性を形にしたものと言える。
その活動は自社に留まらず、一般社団法人ニューロダイバーシティ協会の理事も務め、東京都のスタートアップ支援プログラム「TOKYO SUTEAM」の一環である「Inclusive Hub」ミートアップイベントに登壇するなど、神経多様性に関する社会的な課題解決や啓発活動にも積極的にコミットしている。
企業や福祉団体との連携を進め、包括的な支援の拡充を目指し、神経多様性を持つ人々がその特性を活かせる社会の実現に向けて活動を続けている。

現在の仕事についた経緯

学生時代や社会人初期における集中力の持続困難や、繰り返し起こるミス、2度の早期退職といった自身の「凹の部分で苦しんだ経験」、これらが従来のあり方への問題意識や新しい価値創造への渇望を生んだと考えられます。

自身の経験に加え、タイプが異なるASD(自閉スペクトラム症)を持つ友人が抱える辛さや、その周囲の人々が直面する困難を目の当たりにしたことが、“神経多様性を持つ方々(特にASDのある方々)へのより広い支援”という具体的な方向性に繋がりました。

そして、「当事者起業家」として自身の「圧倒的に得意な凸の部分」を活かし、神経多様性を持つ人々が直面する課題をテクノロジーで解決したいという強い思いに至りました。
その具体的な形としてArtcol株式会社を設立し、AIを活用した支援ツール「Adam ASD Assistant」の開発・提供を開始しました。

仕事へのこだわり

仕事に対する流儀や姿勢は、自身のADHD特性を深く理解し、それをどのように仕事や人生に活かすかという視点を核とした、非常に合理的かつ戦略的なアプローチに基づいています。

■「できない前提」での設計と思考の合理性
障害特性は変えられないという現実を受け入れ、努力や根性で苦手を克服しようとするのではなく、「忘れる前提、できない前提」で作業フローや環境を設計します。これは、脳の不正確さを過信せず、道具やシステムに頼って合理的に作業するという考え方に基づいています。

■テクノロジーを駆使した「身体拡張」
上記の「できない前提」に基づき、テクノロジーを自身の「生存戦略」として最大限に活用します。これは、道具(スマホ、AI、自動化ツールなど)を使って、記憶力、集中力、タスク管理、お金の管理といった自身の「凹」の部分を補い、身体や脳の機能を拡張する「身体拡張」という哲学を実践しています。

■「好き」を仕事選びの揺るぎない軸とする
ADHD特性として「好きか嫌いかがはっきり出る」ため、好きなことには「爆発的な集中力」が出るという自身の強みを理解し、才能を開花させ長期的なパフォーマンスと満足度を得るために、目先の給料ではなく「好き」を最優先で仕事を選びます。

■自身の「強み」(凸の部分)を見つけ、会社の「利益」に繋げる
自身の「凹の部分で苦しんだ経験」を持ちながらも、仕事においては「圧倒的に得意な凸の部分を活かして」価値を創造することを目指します。自分の強みを内省や他者からのフィードバック(特にキャリアの専門家の客観的視点)を通して見つけ、それを会社側に提示し、「会社の利益に対してどういうことを提供できるか」という貢献意識を持って仕事に取り組みます。

■主体的かつ戦略的なキャリア構築と社会変革への意志
自身で特性を開示したり、困難克服経験を含む多角的な自己アピールをしたりするなど、主体的に自身のキャリアを切り開きます。自身の活動を通して、「障がい者就労の在り方をもっと変えていきたい」「発達障害があるからできないという世間の思い込みを証明したい」という強い社会変革のビジョンを持ち、ロールモデルとして行動しています。

これらの要素が、仕事や人生に対する独特で効果的なアプローチを特徴づけていると言えます。

若者へのメッセージ

若者の皆さんへ、私の経験からいくつかのメッセージを贈ります。

まず、自分の特性、特に「できないこと」を無理に克服しようとしないでください。障害特性は変えられないという前提に立ち、「忘れる前提、できない前提」で作業フローを設計するなど、テクノロジーを駆使して合理的に補えば良いのです。これは「身体拡張」という考え方です。

そして、仕事は「好き」を軸に選びましょう。好きであれば爆発的な集中力が出ます。最初は給料が少なくても、そこで才能が開花すれば、後から報われます。

大切なのは、自分の「強み」(凸の部分)を見つけることです。過去に長く続いたこと、人から褒められたことなどを振り返り、キャリアの専門家の客観的な意見も聞きながら探し出すのが有効です。そして、その強みをどうすれば社会や会社の「利益」に繋げられるか、貢献意識を持って考えることが大事です。会社は福祉ではありませんから。

キャリアは誰かに与えられるものではなく、主体的に築くものです。恐れずにたくさん挑戦し、失敗してください。ダメージコントロールをしっかり行えば失敗は怖くありません。また、一人で抱え込まず、困ったときは早めにSOSを出し、人を頼ることも大切です。

テクノロジーの進化は、多様な人々が活躍できる未来を切り拓いています。「発達障害があるからできない」という世間の思い込みは誤解です。自分の特性を見つめ、工夫や改善をすれば、できる仕事は必ずあります。自分の可能性を信じて、トライアンドエラーを続けてください。