現在の仕事についた経緯
以前は、電車やバスで使われるICカードの製造工場で働いていました。窓のない密閉空間の中、日勤と夜勤を繰り返す日々で、環境に馴染めず、このままでいいのかと悩んでいました。そんなとき、以前勤めていた弱電工事会社の社長に相談したところ、消防設備の仕事を紹介していただき、事業委託という形で個人事業主として独立しました。
ただ、この業界では10〜20年の経験を積んでから独立するのが一般的です。知識も経験もない20代半ばの私にとっては、非常に大きな挑戦でした。最初の頃の現場では、自分の施工が正しいのか不安で、仕事終わりに毎日消防署に通い、消防士の方に図面や施工方法を細かく相談しながら学びました。
現場ごとの課題に向き合い、工夫や試行錯誤を重ねる中で、少しずつ技術や知識を身につけることができました。今では、他社が手を引いたような難しい案件の相談が来ることもあり、自分の仕事に自信を持てるようになりました。あのとき環境を変える決断をしたことが、今の自分をつくった大きな転機だったと感じています。
仕事へのこだわり
私は昔から、「人に喜んでもらうこと」が何より嬉しいと感じるタイプです。
今でも覚えているのが小学生の頃。習字セットを忘れてしまい、友達に貸してもらったことがありました。お礼の気持ちを込めて、信じられないくらい丁寧にきれいにして返したら、その子がすごく喜んでくれて。それが自分の中でも心に残っているんです。「人を喜ばせるって、こんなに嬉しいんだな」と。こういう価値観を私は大切にしています。
仕事においても、その想いは一貫しています。私を選んでくれたお客様や一緒に働く仲間、取引先の方々に、「この人にお願いしてよかった」「一緒に仕事ができてよかった」と思っていただけるよう常に意識しています。
特に現場では、自分の工程だけでなく、その後に作業する職人さんのことまで想像して動くようにしています。たとえば、次の作業がしやすいように配線や設置の位置を少し工夫するだけで、手間が省けて作業効率が上がります。結果として、仕上がりが美しくなり、最終的にそこに住む人にも満足してもらえるのです。この“ちょっとした気遣い”の積み重ねが、現場全体の雰囲気を良くします。
仲間への関わり方でも、私はあまり細かく教えすぎないようにしています。もちろん、特殊な現場や基本的な知識はしっかり伝えますが、「これはこうしなさい」といったルールをつくりすぎることは避けています。それぞれが現場で状況を見て、考えて、工夫できる力を育てることのほうが大切だと思っているからです。そのほうが本人の成長にもつながり、結果的にチーム全体のレベルアップにもなると考えています。
私がこだわっているのは、「どうすれば相手が喜ぶか」を常に考え、それを行動に落とし込むことです。人に感謝されること、信頼されること、それが自分にとって最高のやりがいであり、誇りでもあります。だからこそ、これからも“喜んでもらえる仕事”を積み重ねていきたいと思っています。
若者へのメッセージ
私がこれまでの経験の中で感じているのは、「人のために動くこと」の大切さです。ちょっと照れくさい言い方かもしれませんが、誰かの役に立ちたい、喜んでもらえたらいいな、という想いで動くことで、結果的に自分自身が助けられる瞬間がたくさんあるんですよね。
たとえば現場で、自分の仕事だけではなくて、次に作業をする人が動きやすくなるように工夫したり、相手が気持ちよく仕事ができるように少し気を配ったり。そういったちょっとした“人のため”の行動が、まわりまわって信頼につながって、自分が困ったときに助けてもらえるんです。そういう信頼関係ができていくと、現場全体が自然と明るくなり、仕事もやりやすくなります。
もちろん、はじめはうまくいかないことや、空回りすることもあると思います。でも、「どうしたら相手が気持ちよく動けるか」「どんなふうにしたら喜んでもらえるか」を考えることって、すごく意味があるし、それができる人って、どんな場所でも求められる存在になれると思うのです。
だからこそ、私は“人のために楽しみながら動く”ということを、これから社会に出る若い人たちにも大切にしてほしいと思っています。誰かのために動くって、自分のためにもなる。そんなふうに思えると、仕事も人生も、もっとおもしろくなっていくのではないかなと感じています。