現在の仕事についた経緯
大学院を修了後、半導体製造装置メーカーの開発エンジニアとしてキャリアをスタートさせました。しかし、社内に誰もが認める天才エンジニアがいたんです。彼の仕事ぶりを見ていて、ある日気づきました。「自分は技術者として、この人には勝てない」と。純粋な技術力では到底及ばない。それを認めざるを得ませんでした。
ただ、そこで一つ気づいたことがありました。優れた技術者というのは、その才能ゆえに周囲と上手くいかないことがある。組織の中で孤立してしまったり、疎まれてしまったり。一方で私は、周りとコミュニケーションを取ることが得意でしたし、その彼とも良好な関係を築けていました。
おこがましい言い方かもしれませんが、彼をプロデュースする側、マネジメントする側に回ろうと決めました。技術で一番を目指すのではなく、優れた技術者が最高のパフォーマンスを発揮できる環境を作る。それが自分の役割だと考えたんです。
その後、リーマンショックを経験し、マーケターに転身。家族でドイツに移住し約6年を過ごす中で、グローバルな視点を養いました。帰国後はMBAを取得し、スイスの真空プラズマ装置メーカーの日本法人でゼネラルマネージャーとして経営に携わっていました。
そんな時、ヘッドハンター経由で大手ファンドからお声がけをいただきました。半導体業界で25年間積み重ねてきた経験、技術とビジネスの両方を知る立場——それらを評価していただき、ご縁があって2024年11月に江信特殊硝子の社長に就任することとなりました。
エンジニアとしての「挫折」が、今の自分を作る最初のきっかけだったと感じています。
仕事へのこだわり
私が仕事をする上で一貫して意識しているのは、「誰かの役に立つために、自分の力を大きくしていく」ということです。
子供の頃は、自分でできることを増やし、自立するために頑張る、それで良いのだと思います。しかし大人になると、それだけでは成長を実感できなくなるのではないでしょうか。誰かのために何ができるか、その範囲を広げていくことが、真の成長であり、仕事への原動力になると考えています。
大切な人や組織を守り、支えるためには、まず自分自身が十分な力を持っていなければなりません。いざという時に頼りにされる存在であるために、常に自己研鑽を積み、できることの幅を広げ続ける。それが私のスタイルです。
エンジニアとしてキャリアをスタートさせた当初は、一人の優れた技術者をサポートすることが私の役割でした。その後、プロジェクトマネジメントを経て経営の道へ進む中で、責任を持つ対象は徐々に広がってきました。プロジェクトメンバー、社員、そしてその家族——今では、この業界全体に貢献できる立場を目指しています。
特殊硝子加工の分野は、長年にわたり熟練職人の技術によって支えられてきました。
しかし、職人の高齢化が進み、技術継承が喫緊の課題となっています。
この過渡期において、私たちがすべきこととしては、業界内で連携を深め、技術とノウハウを次世代へ確実に継承していく。そして江信特殊硝子を、日本の伝統的なモノづくりを牽引するリーディングカンパニーへと成長させる。それが私の使命だと考えています。
新人時代から今日まで変わらないのは、「より多くの人の役に立てる自分」を目指し続ける姿勢です。その実現のために、自らの力を磨き続けることを惜しみません。
若者へのメッセージ
私が常に心がけているのは、自分で自分の限界を決めないこと、そして「自分のことは自分が一番よく分かっている」という思い込みを持たないことです。人は「自分はこういう人間だ」と決めつけた瞬間、成長の可能性に蓋をしてしまうものだと考えています。
また、付き合う人の年齢層は意識的に広げるよう努めています。同世代だけで集まると、どうしても知識や価値観が偏りがちになる。異なる世代との交流は、自分では気づかなかった視点を与えてくれます。
若い方には、ぜひ早いうちに海外を経験してほしいと思います。旅行で構いません。異なる文化や価値観に触れることで、視野が格段に広がります。私自身、ドイツでの6年間が、今の自分を形作る大きな経験となりました。
自分の可能性を限定せず、多様な人々との出会いを大切にし、世界を広く見る——これらが、長期的な成長につながると信じています。

