現在の仕事についた経緯
“祖父と父が医師”という家庭に育ち、幼い頃から医療は身近な存在でした。私自身も科学や生命への関心が強く、自然と医学部へ進学しました。当初は「命を救う最前線に立ちたい」という思いから循環器内科を専攻し、専門医として心臓疾患の治療に没頭しました。
しかし、現場で多くの患者さんと向き合う中で、「心臓という臓器だけでなく、患者さんの背景や人生を含めて丸ごと診たい」という思いが芽生えました。そこで総合診療の分野へ転向し、救命救急や地域医療などの多様な現場で経験を蓄積しました。
現在はその経験を活かし、どのような症状にも対応できる「地域のかかりつけ医」として診療にあたっています。
仕事へのこだわり
私の仕事における最大のこだわりは、「病気という『点』ではなく、患者さんという『人』、そしてその生活背景である『社会』までを総合的に診る」というスタイルです。
かつて循環器内科という専門分野にいた頃、一つの臓器を突き詰める重要性を学ぶ一方で、体全体のバランスや、患者さんの生活環境を無視しては本当の解決にならないことも痛感しました。検査数値という一つの数字を良くするだけでは不十分なのです。
現在、私が院長を務める当院は、祖父の代から地域に根ざしてきました。当時は周囲に病院も少なく、祖父は「町医者」としてあらゆる怪我や病気に対応していたと聞きます。その「何でも診る」という精神は、私の総合診療医としてのスタンスと合致しており、当院のDNAとして今も大切にしています。
しかし、幅広い症状に対応するには、医師自身が常に進化し続ける必要があります。医療は日進月歩の世界です。数年前の常識が、新たな研究によって覆されることは日常茶飯事です。「昔はこうだった」という経験則だけに頼ることは、医療においてはリスクになり得ます。
だからこそ、私は情報の鮮度にこだわります。多忙な診療の合間を縫って医学誌や論文に目を通し、常に最新の定説や治療法をインプットし続けています。
地域のかかりつけ医だからこそ、最先端の知見を持って患者さんの不安を受け止めたい。伝統ある医院の温かさと、アップデートされた最新の医療。この二つを融合させ、患者さんに還元していくことが、私の揺るぎない流儀です。
若者へのメッセージ
医師にとって大切なのは、専門性を磨きながらも、常に「全体を俯瞰する視点」を持ち続けることです。私は循環器の専門医として働いていた頃から、単に一つの臓器を治すだけでなく、全身のバランスや患者さんの背景を横断的に診ることを何より重視してきました。その意識を持ち続けてきたことが、現在の総合診療というスタイルを確立する原点になっています。
特に地域医療の現場では、病院のように病名が決まっているわけではなく、「何が起きているか分からない」状態からスタートします。この不確実な「入口」を見極め、適切な解決策を導き出すには、専門知識に加え、広い視野と柔軟な思考が不可欠です。
若いうちは、一見無関係に思える経験や、専門外の業務に戸惑うこともあるかもしれません。しかし、経験しなくてもよかったことなど一つもありません。深く掘り下げる経験と、広く見渡す経験。そのすべてが、将来、あなた独自の強みとなります。
医師が病気だけでなく「人」全体を診るように、皆さんも仕事を通じて社会や相手の全体像を捉えることを大切にしてください。そうした姿勢が、やりがいのある豊かなキャリアを切り拓く鍵になるはずです。

