リーダーインタビュー
今野良
メディカルコンサルH&B Medical Consulting 代表/名誉教授 今野良 https://medchb.com/

Profile

医師・医学博士/メディカルコンサルH&B代表/自治医科大学名誉教授
Ryo Konno MD, PhD, Professor Emeritus
1984年、自治医科大学医学部卒業。卒業後の義務となるへき地勤務を含む地域医療機関に9年間従事。東北大学医学部産婦人科講師・医局長、山形県立中央病院産婦人科長を経て、自治医科大学附属大宮(現さいたま)医療センター助教授、2008年から教授。2025年4月から現職。

学位:医学博士(東北大学)、1991年「子宮頸部扁平上皮癌および異形成の進展とヒトパピローマウイルス感染-in situ hybridizationとpolymerase chain reaction(PCR)を用いて」

研究・学会活動等:ASCO(米国臨床腫瘍学会)子宮頸がん一次予防ガイドライン作成委員(HPVワクチン)。ASCO(米国臨床腫瘍学会)子宮頸がん二次予防ガイドライン外部評価委員(検診)。Prevention of cervical cancer in the Asia Pacific region: Progress and challenges on HPV vaccination and screening(ICO-WHO)日本語版編著、HPV Today 日本語版編者、e-oncologia(ICO-WHOイーラーンニング)日本語版編集総括。
日本産婦人科学会(専門医)、日本婦人科腫瘍学会(専門医)、日本産婦人科内視鏡学会(理事、技術認定医)、日本臨床細胞学会(専門医)、日本エンドメトリオーシス学会(理事)、日本婦人科がん検診学会(2012年学術集会長)、日本美容内科学会、日本癌学会、日本癌治療学会、日本産婦人科医会、日本旅行医学会など。
ASCO(米国臨床腫瘍学会、子宮頸がんガイドライン作成委員・外部評価委員)、AOGIN(アジアオセアニア生殖器感染症および腫瘍に関する学会、日本代表理事、2017年TOKYO meeting会長)、Aesthetic & Anti-Aging Medicine World Congress(世界美容医療・アンチエイジング医学会)、World Endometriosis Society(世界子宮内膜症学会)など。
日本化粧品検定3級、日本コスメティック協会コスメマイスター・ライトPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)評価委員およびPMDAにおけるメーカー側事前相談のコンサルタント、子宮内膜症に関する創薬プロジェクト(製薬会社と霊長類医科学研究所 共同)、世界10か国以上の特許取得の発明者(共同研究)、国際学会(海外)での英語講演多数、日本語および英語での論文発表(350編以上)、独立、著書多数。行政法人医薬基盤研究所(霊長類医科学研究センター)客員研究員。

獲得研究費:AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)・文部科学省・厚生労働省科学研究費、高松宮がん研究助成金、製薬会社等の研究助成金など。

社会活動等:NPO子宮頸がんを考える市民の会理事長、厚生労働省がん検診のあり方委員会参考人、厚生労働省予防接種審議会参考人、岩手県奥州市 地域医療奥州市モデル・新医療センター検討委員会 メディカルアドバイザー。

現在の仕事についた経緯

「健康と美」は誰しも求めるものですが、年齢にかかわらず大きなテーマです。最近は若い女性も、中高生時から化粧に興味を持ち、エステ、美容外科と「エスカレート」する人もいます。中には、その施術や治療の過程で副作用や予期せぬトラブルに遭遇し、行き場が見当たらず「難民化」、または、その施術にのめり込むといった問題も生じます。
健康と美は中高年女性にも若年層以上の大きなニーズがあります。寿命が延び、若々しく活動する女性達は、年齢を感じさせない美しさを保っています。しかし閉経年齢は以前と変わらず、50~51歳です。見方を変えれば、更年期障害を経て、さまざまな心身の問題を抱えつつも、美しく健康でいようと望み、そのための努力をしている女性が増えているということです。
今回、私はクリニック開業ではなく、個人へのカウンセリングと企業・組織・団体へのコンサルティングを行う事務所を立ち上げました。設立の意図は、若年層には美容という窓口から健康をつくっていくことの重要さを伝えること、中高年女性には正しい情報に基づいて健康で美しいライフスタイルの構築を提案していくことです。そして、研究とその成果の企業や社会に対する発信によって、次世代の「健康と美」の医療・医学に貢献していきたいと考えています。

仕事へのこだわり

ワクチン接種、妊婦健診やがん検診など、common diseasesであるかぜや日ごろの健康問題を扱うのは、先進国に限らず多くの国では「総合医」といわれるかかりつけ医の仕事です。へき地医療に従事した経験からこの「総合医」の重要さは痛感しています。
予防接種は乳児期以降、思春期もその後もかかりつけ医で受けます。子宮筋腫、高血圧、心臓病なども、まずかかりつけ医を受診し、手術や高度医療が必要な場合に専門病院に紹介されます。日本では「頭痛」の際に大学病院でMRIやCTを受けて脳外科医と神経内科医を受診し、最後はマッサージで肩凝りが直ったなど、笑えない非効率的な医療が日常茶飯事です。
これらの背景には、日本の医療を根源から見直し、改善すべき点があります。私が40年間取り組んできた子宮頸がん予防において、今ではヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンも、HPV検診も国の施策・指針になりましたが、依然知らない人の方が圧倒的に多いのが現状です。WHOが進める今世紀中の世界からの子宮頸がん征圧(根絶)は、先進国では数年以内に現実化し、多くの中低所得国でも今世紀中に達成できる見込みです。
しかし日本では数年以内どころか、今世紀中の達成は無理なことが確実視され、他の先進国から100年の遅れが想定されます。その間に、多くの女性が子宮頸がんに罹患し、将来の家族を失い、自分の命を失うのです。しかもこのことを国民の多くは知りません。
HPVは子宮頸がんの原因になるばかりではありません。米国では、子宮頸がん検診の普及によって、HPV関連がんで最も多いがんは中咽頭がん(男女)になっているのです。かつての常識は常識でなくなります。正しい情報を発信し、国民を啓発・教育することが重要です。
この20年間取り組んできた子宮内膜症は、病気は痛みと不妊症が主な症状で、世界中で1億9000万人が苦しんでいます。治療には、ホルモン剤が用いられていますが、ホルモン剤使用中は妊娠ができません。しかも、ホルモン剤は子宮内膜症の原因を治療することはできないのです。
私たちの産官学共同研究によるホルモンに依存しない免疫からのアプローチで新薬開発に取り組んできた成果が、CNNをはじめ世界で50以上のメデイアに取り上げられました。現在、ヒトへの臨床試験が進行中です。

若者へのメッセージ

若い医師時代は決して恵まれた環境にあったわけではありません。むしろ、同期や友人たちが、先進的な教育機関で学び、留学に旅立っていくとき、へき地で数少ない患者さんに接しながら、コツコツと勉強を重ね論文を書いていました。身近に専門医や特殊な技能を持つ指導医がいない環境でも、機会を捉えて学び、専門医資格や医学博士を獲得しました。自分が専門医になればよいのです。
大学病院で勤務するようになってからは、沢山の患者さんの臨床や手術の機会に恵まれて研鑽を積みました。当時は、日本では初めての技術や手術を身に着けられることに感動しつつ、その成果を発信することを覚えました。
医学・医療には、ここがゴールということはありません。学校で教わらなかった、国家試験には出題されない範囲だった、などという言い訳は通用しないのです。患者さんには、個人ごとに最高の医療と配慮を提供すべきです。
現在、利用できない医療は、臨床試験や研究開発で作っていくしかありません。グローバルにあって、日本にないものがどんどん増えてきています。日本はもはや先進国ではありません。この状況にあって、井の中の蛙でぬくぬくと生きていくことが望ましいことではないのです。
個人に対する医療の個別化も重要ですが、一方で、公衆衛生の価値を重要視してほしいと思います。小医は病を医す、中医は人を医す、大医は国を医す。自分の制限(limitation)を自分で作ってしまうことは避けよう。どんな可能性もあるのだから。